SFっぽい

水無月十五日・二〇一〇 #598

最後に夢を見たのはいつだったろうか。もう、眼を閉じたくらいでは眠りもしない。夢など、夢のまた夢。今や瞼を閉じれば全天周の情報が直接脳内に流れ込む。そんな、遠く青い母なる星を守る現代の防人に許されたのは、人知れず歌うことのみ。おいら小惑星帯…

皐月二日・二〇一〇 #551

報告書にはこうある。「人口:約100億前後/政治:域国家連合前期/物理技術:反応後期・航宙端緒期/越界技術:未確認。但しL線形期痕跡を認めるが、E濃度が極めて稀薄」悪い冗談だろう。融合期も時間の問題だと云うのに、越界技術が痕跡程度だなどと。一体…

卯月十八日・二〇一〇 #533

DNA解読の副産物として齎されたそれは、当初こそ倫理的な問題を口にされたものの、ほんの数年で人口に膾炙する技術となっていた。それは組織再生だけではない。封鎖領域の情報を起動させ組み込み、種の常態には有り得ない器官を「新生」する──ファッションと…

如月廿二日・二〇一〇 #483

世界と云うのは結構重なり合ってるもんで、位相差とか云ったりするんだが、そこの間の流れをイーサとかエーテルとか呼ぶんだが、これが齎すエネルギーが銀河文明を支えていると云っても過言ではない。その原則から云えば、相転移から隔絶されたそんな場所に…

如月十九日・二〇一〇 #479

第六腕の17セクタと云えば、確かエラい辺境ではなかったか。信じられないほどエーテルも稀薄で、あの中と行き来するには確か物理推進しか手段がなかった筈だ。まさか何も居やしまいと、ダメ元で「小さい灰色」どもを送り込んで随分経つが、先日報告があった…

睦月廿九日・二〇一〇 #461

人類の悲願、生存可能な地球外惑星の発見。調査を終え、文字通り礎となる「種」を蒔く。それは「代謝都市計画」の要たる形態形成場因子、即ちナノマシン群。砂礫を食み土を巻き込み、自己相似する螺旋を積み上げる。その形状よりロマネスコ型と呼ばれる尖塔…

霜月廿五日・二〇〇九 #320

あらゆる時間と空間で彼等は「採集」する。失われる前に、全てを記録しようと。ただ黙々と、終わりの記録、閉じてゆく世界を記述する。全てが停まった遥か未来の果てで、贖罪の様に佇む「博物館」。時を離れ、訪れるもの無き、嘗て霊長と呼ばれたものの墓碑…

霜月十九日・二〇〇九 #303

彼が生きて在ることこそ神の不在の証明かも知れぬ。最早ヒトの形を保つことさえ困難なまでに崩れた躯であるが、意識も明白にあるのだ。その時点で、彼等にはひとまず成功だったと云う。その先へ。悪性新生物から新人類を求める探求は続く。誰よりも彼自身が…

霜月十七日・二〇〇九 #301

宙に棲むもの、忘れてはなりません。虚空に五弁の薄紅を見つけたら、ゆめ気を抜いてはなりません。宙に咲くその花に、けっして気取られぬように。尾けられたなら、最早二度とは故郷に帰れぬと知りなさい。美しき破滅の凶花。宙に漂い、星に宿り、星を喰らう…

霜月十三日・二〇〇九 #284

大地が靄に沈んでどれほど経つか。人々は高いところへ、塔を建ててそこに身を寄せ合って暮らす。塔を善しとせぬ人々も何処かへと消えた。かつては星の海へ漕ぎ出した叡智も最早見る影も無い。塔から塔への便りも途絶えがちになり、一体今どれほどの人がこの…

霜月十日・二〇〇九 #276

虚数空間の観測を人類が可能とした時「それ」は牙を剥いた。通常兵器を尽く無力とする「それ」への、最後の切札、それが「虚人」。操者の全てを供犠として、敵なる全てを滅し去る。血を肉を魂を、存在を、人々の記憶の中からさえも。忘れぬ者は唯、操柩を納…

霜月十日・二〇〇九 #273

太古の昔に飛び立った巨鳥が、未だ空を舞うと伝えられる。空の涯を、高く高く。大地を逐われ、各地の塔に細々と暮らす我ら。塔を繋ぐ術もないが、それは最早、信仰と化していた。ある者は空に霞む純白を見たと云い、またある者は翼ある森だと云う。翼を喪っ…

霜月八日・二〇〇九 #265

塔の街に陽は射さぬ。真芯の大空洞を輝く柱が貫き、その光の増減に従い日々を律する。街は螺旋を形作り、何処まで続くか古老とて詳しくは知らぬ。若者は多く果てを目指し旅立つ。当地に於いて開拓とはこの螺旋を登る事を意味する。時折降り来る者より聞くに…

霜月六日・二〇〇九 #253

星自体がものを考えている。それに気付くのに実に十世代を費やした。星の考えを読み取るのに、更に六世代。多くの驚きに満ちた示唆を得て、ようやく真意に到達できたと確信できたのは更に数えること十七世代。そして我々は新たな天地を目指す。星の真意は唯…

神無月廿五日・二〇〇九 #225

「これが?」「14Cで十万年前だそうだ」「まさか」「なんなんだろうな」「誰か行ったんじゃないか」眼前のそれは何の変哲もないコーラの瓶。狐につままれたような気分で帰るが、あくる日電話が。「例の瓶がなくなった」未来人、そんなやりとりを知る由もない…

神無月廿三日・二〇〇九 #218

それはつまり、子供達だからこそ出来たこと。彼らの「冒険飛行」は月にまで及んだけれど、帰ってきてからの足取りどころか、誰だったのかすら掴めていない。だけど、この日から大人達も空を思い出したんだ。そうして、奴らは突然いなくなった。それがぼくら…

神無月廿三日・二〇〇九 #217

結局のところ空を手放したのは大人たちで、子供たちは諦めた訳じゃなかった。奴らが決して公開しなかった筈の技術も、子供達の好奇心には無力だった。そうやって子供達の「反乱」が始まる。誓ったことは二つ、空を取り戻せ、大人達に利用される前に終わらせ…

神無月廿三日・二〇〇九 #216

空なんて。見上げるだけ忌々しい。奴らの艦が見下ろしてるだけじゃないか。ぼくらには抗いきれぬ力を持って、奴らは空から降りてきた。この星は奴らのものみたいになったらしいけど、ぼくらの生活はそう変わらなかった。幾つかのかなり凄い技術と引き換えに…

神無月廿二日・二〇〇九 #215

超人の軍団を御し得れば、とは支配者が常に夢見る妄想であったが、遂に叶う日が来た。感覚、筋能力の増幅、代謝形質の変容及び自然治癒力の異常亢進。それらを一手に担うVウィルスの開発。だが、光あれば影あり。代償に凶暴性と紫外線脆性、血液感染性。Vの…

神無月廿一日・二〇〇九 #210

汎銀河文明の象徴とも云うべき「おでん」。出汁、具、只一つの齟齬で星間戦争ともなりかねず、「銀河標準おでん」の制定が急務であったが、ここに惑星◁●□は或る決断を下す。伴星と併せ三重星を一本のシャフトで貫き、協会設立の礎とする壮挙を遂げたのだ「銀…

神無月十六日・二〇〇九 #195

まだ、生きていた。打ち棄てられたことすら誰も忘れていたろうに。冷たい冷たい柩から、一人、また一人。蒼き星は。赤き星は。金色の星は。あらゆる機構が主の目覚めとともに動き出し、知る限りを伝える。遥か昔に離散した人々が、再び集う日は近いと。月面…

神無月十六日・二〇〇九 #194

ぼうぼうと禽獣の声。森の開けたところに、鉄塔が建っている。打ち放たれたコンクリートも森に喰われて久しいが、決意に寄り添うように鉄塔が建っている。軌道ステーションが健在と知れたのは数年前。今数百年の時を経て、再びソラを目指す。澄み渡る金星の…

神無月十六日・二〇〇九 #193

少年が消えた、と塔の街では騒ぎになった。一週ほどの後、彼らは父母の心配をよそに帰ってきた。「軌道塔を上ってきた」と誇らしげに語るのだ。噂は街中を駆け巡り、男どもは少年をそそのかそうと必死だ。無論、たかが大目玉で懲りる歳ではない。母は怒るが…

神無月十四日・二〇〇九 #183

所謂ダイソン殻と遭遇した。年代は不明だが動力は健在のようだ。内部を調査する/生命反応なし。そこに広がるのは無数の書架。列をなし壁をなしまるで迷宮のようだ。調査を続行する/信じられない。否、信じたくない。この結果を本星に報告すべきか。 ……記録…

神無月十一日・二〇〇九 #174

後詰めに、鋼鉄の颶風。白銀の猟戦姫の傍らに、常に。駆け抜けた銀の疾風を、確かな道に伐り拓く、それが死命。千の砲列が咆哮を上げるとき、いかな鉄壁とて砂上の楼閣の如し。何れ万の砲火の前に立ち果るは必定か、君知るやその打刻が真意。「634-BK」死し…

神無月十一日・二〇〇九 #173

マニ式バベッジ機関が轟音をあげる。託宣が降りてきたのだ。矢継ぎ早に打ち出される詔、その数幾万に及ぼうか。全て、直ちに解読班に送られる。あらゆる数学的数秘術的呪術的解釈を繰り返し、その答えが出るのは百数十年後。その答えに従い、僧はハノイの塔…

神無月十一日・二〇〇九 #172

「今天は五鎖ほど剪定しておいてくれないか」「伐った分はどうします」「それは置いといて。またそこから始めるから」その一言に安堵する。そこに何が在ろうと、時間分岐の連鎖を剪定するのが庭師の仕事。だが、断たれた枝を棄ててしまうのは、どこかいつも…

神無月六日・二〇〇九 #151

オバチャンである。思い思いの恰好。眼には決意と打算。機関音は轟く。幟が揺れる。時計を睨む、眼、眼、眼。針が……頂点を指す! 刹那、怒濤は路程を席巻する。増力装を鎧った主婦達の、まさに生存を賭けた闘い。斃れし者踏みしだかれ、勝者のみが特売品を得…

神無月五日・二〇〇九 #147

渦巻く暗雲から閃光の矛が降り注ぐ。雨も当分止む気配はない。しかし、これでいい。収穫の前の稲妻は、その一本一本が有り難い。何せあの畑に稔るのは「雷麦」だ。食用ではないがひと袋あればこの辺りでなら一月は保つ。こんな辺境でも電気に不自由しないの…

神無月二日・二〇〇九 #133

嘗て此処は灼熱の雲海であった。技術の粋と溢れる情熱と野心がこの星を噎せ返る密林と化してより幾千年か。星に発つ術もあらかた用を失った。伝えられ続けているのだと云うが、此処数十年は空に上がった試しもない。その昔は母なる星に帰るのだと息巻いてい…