2010-01-01から1ヶ月間の記事一覧

睦月廿九日・二〇一〇 #462

空を見上げるたびに月が濃くなってゆく。ゆっくりと、杯を盈たすように。すっかり陽の落ちた夕暮れの闇に、溢れてけぶる光をおぼろに纏い。失くなる訳ではないのにどこか危うい朧月夜は成程、貴女がそう云う訳だ。零れた光の欠片に、背筋を撫でられて。その…

睦月廿九日・二〇一〇 #461

人類の悲願、生存可能な地球外惑星の発見。調査を終え、文字通り礎となる「種」を蒔く。それは「代謝都市計画」の要たる形態形成場因子、即ちナノマシン群。砂礫を食み土を巻き込み、自己相似する螺旋を積み上げる。その形状よりロマネスコ型と呼ばれる尖塔…

睦月廿九日・二〇一〇 #460

【希望】微かに、潮の匂い。峠を越えれば、眼前遥かに、碧の一線。どうやら旅もひとまず、何事もなく終えられそうだ。「託すには心苦しいが、恐らく最後の希望なのです」最後の、が引っ掛かっている。何か、触れてはいけないのか。目指す街は彼方に見える白…

睦月廿九日・二〇一〇 #459

雪の降らなかった街では春を告げる鳥が戸惑っている。何となくさえずってみたら急に空気が温んで、びっくりしたので黙ってみたら一気に真冬の空に逆戻り。さえずるべきか、黙っているべきか。目安がないと戸惑っている。戸惑った挙句、春を告げそびれるんじ…

睦月廿八日・二〇一〇 #458

朧月夜が綺麗だと聞いて、窓を開けてみたら雨だった。距離のことを、とんと忘れていた。 ほぼ実話。 久しぶりに赤ふぁぼまで到達した。

睦月廿八日・二〇一〇 #457

稚さ故の過ち? そんな冗談があってたまるものか。この仔が無意識に描こうとしているもの、それは禁呪だ。それもとびきりの──【反魂】の術式だった。「それだけはだめ」あたしの言葉で諭せる訳もない。せめての代わりに、抱き締めてやることしか出来ない。蒼…

睦月廿七日・二〇一〇 #456

さて、これは制止するべきだろうか。「ちょ「静かに。集中が途切れ、あ「ふーん。しゃべれたんだ、キミ?」「きゅ?」いやもう遅いから。ばつの悪そうな上目遣いで「くぅ。」と。「片付けなさい」「くぁう!」「喋れるなら喋れ」「けち」……ぽかっ。 @yukine_…

睦月廿六日・二〇一〇 #455

「男ってホント、莫迦ねえ」「惚れた相手のことで莫迦にならなくてどうするよ」 一行もの、魂の叫びとも云う。

睦月廿六日・二〇一〇 #454

これ以上待ったところで何の救いもない。多分そう判っている。足許の缶に収まり切らない焦慮が、道ばたに朱く、灯る。 最早私小説の定番となりつつある「待つ」系(ってのも厭な話だナ)。非喫煙者ではあるが道具立てとしての煙草は実は嫌いではない。この辺…

睦月廿六日・二〇一〇 #453

その隣歩めるならばこれからも パーセントにもまだ遠いけど/結局云えずにいた言葉は歌の形にして封じることにする。時は限られたもの、もう魔力など残ってはいないのだ。その瞬間でなければならなかったのに、遮るかのような留守番電話。預ける気にもなれや…

睦月廿六日・二〇一〇 #452

幼い頃臆面もなく口に出来た言葉を、いつ躊躇うようになったのだったか。そこに本来の意味と残酷な確率論を見出して以来、すっかりその言葉を口に出来ない。そうこうするうちに、気がつけば若くはない。言葉の先にあるであろう未来を見据えれば、更にも億劫…

睦月廿四日・二〇一〇 #451

よく鋤いてふんわりした土が好き。化学肥料はあんまり好きじゃないけど背に腹は代えられない。時々水に浸かるのも好き。時々ゼリー風呂とかも入りたいな。根子さんはマンドレイク。実家の温室からついてくると云って聞かなかったので、一緒に住んでいる。 @i…

睦月廿四日・二〇一〇 #450

空が隠した道を往く。大丈夫、見届けるべきものは見届けたし、もう居なくても前に進めるだろう、きみは。こんな道が世界中に張り巡らされていることなど、誰も知らなくていいのだ。──そう、これは一人に一つだけの道、誰のものでもない道、永遠の、かえり道。…

睦月廿三日・二〇一〇 #449

……静かすぎる。苔すら枯れがちなその館はまるで、祠のようでもある。僅かに開いた扉の隙間から、冷たい空気が微かな匂いを帯びている。不安と裏腹に、足が止まらない。コンクリートに足音と、どこかで水滴が響く。季節外れの蛍に似た灯が足許で規則的に。誘…

睦月廿二日・二〇一〇 #448

塔の街に灯が点る。今見るこの塔はかつての災厄の後に築かれたもの。そして今日こそは彼の、忌まわしき厄災の日。傷痕深く今もなお残る、あの瓦礫の山を見よ。礎を刻む槌音は絶えず確かな歩みの中に在れど、そは忘ること赦さじ。この日だけは、その灯りの色…

睦月廿二日・二〇一〇 #447

大門を潜れば左右より喧噪。古今東西絶えたことはないであろうお決まりのそれも、初めての地となれば勝手が違う。きちんと大路を歩いていた筈が、声も退いてはたと気づく、ここは何処の細道か。なにか、お困りですか。屈託なく微笑む娘に些か締まらぬ表情で…

睦月廿日・二〇一〇 #446

【69】嵐の爪痕も生々しい砂の向こうに、旧いしるし。先を行く彼が、再生を司るシンボル、ずっと古い時代の信仰の証しと教えてくれました。古の聖堂も、今ではもうほとんどが砂の中。循環を意味する双子にも似たそれは、今も密やかに祈り続けているようで。…

睦月十八日・二〇一〇 #445

わたしの不注意で毀してしまった、あの人形。そう云えば、師匠から譲り受けた時と同じじゃないか。あの頃のわたしも寝食を惜しんで取り組んだものだが、あまり無理ばかりはよくないぞ、と、その時。あの日のメロディ。幽かに、確かに。作業台に突っ伏す彼を…

睦月十八日・二〇一〇 #444

「もう謳えない?」「難しいかな」彼は云う。もう一度謳わせられたなら君にあげよう、と。少年は頷き、そして通うようになってもう随分経つ。何時か店の一隅に仕誂えた、少年だけの「工房」。最初は螺子の取り回しすら覚束無かったの云うのに、今では彼にす…

睦月十七日・二〇一〇 #443

その日はいい天気だったのでいつもは行かない方向に行ってみる事にした。廃ビル森のいつもは右手に折れる「ゲート」と呼んでいる所、その左手側。流石にガラスは降ってこないだろうけれど、注意して歩く。木漏れ日の先に、まだ生きてそうな建物がある。何故…

睦月十六日・二〇一〇 #442

川を挟んできみと歩いてる。橋が、もう長いこと見当たらないから飛び越えようと思ったけど、いくらなんでも無理だよときみは笑うし、ぼくも正直無理だと思う。この先にきっと掛かっているはずと、遅れないように歩いてる。ついていくのが精一杯だけど、時々…

睦月十五日・二〇一〇 #441

【意志】吹き荒れる砂塵も明日には止もう。砂丘を越えれば海はもうそこだ。そこで何を見何を聴くことになるかは知れずとも、きっとその場が教えてくれるだろう。「呼び声」は確かに応えたのだ、そこを目指す意志に。静けさに鎧戸を開け放つ。季節の割に冷涼…

睦月十四日・二〇一〇 #440

書が世界であるならば。外郭となる世界は不断の闘争によりその裡に他の世界を併呑したものである。そう仮定し、実証しようと試みた者こそが大戦を巻き起こした。そして、それは或いは成功したのかもしれぬ。それが終結した今、世界はその有り様を根底で大き…

睦月十二日・二〇一〇 #439

人は言葉を留める為に文字を見出し、それを書き留めて書とした。それは一冊ごとが即ち世界であり、世界は数多の世界を内包するのだった。そして、世界を「ありのまま」に読むもの達が現れ出る。その好奇心が禁断の扉に触れた時、その惨劇は最早必然であり、…

睦月十二日・二〇一〇 #438

大戦の反省からか、人は書と云うもの、形ある本を棄てた。あらゆる書物は情報化され、いつでも閲覧可能とはなったが、無論例外はある。散逸すれば大戦の惨禍を再び巻き起こしかねないモノ、ヒトの知性理性の範疇にないモノ。所謂禁書と呼ばれるそれは厳重に…

睦月十一日・二〇一〇 #437

【砂嵐】物凄い音に目を覚ましました。鎧窓の外、吹き荒れる風は砂丘越し、舞い上がる砂を孕み容赦なく打ち付けます。世話役の彼はもう少し急ぐのだったと渋い顔ですが「間に合わなくなる訳ではない」と私達には気を遣ってくれてるみたい。砂の音も、海はほ…

睦月十一日・二〇一〇 #436

かつて栄華を誇った大都市も今や森深く沈む。大戦は世界の様相を大きく歪め、その爪跡は未だに癒えることがない。異形蠢く魔境と化したその森から、何か形ある物を持ち帰れればしばらくは遊んで暮らせるとあって挑む命知らずは後を絶たぬが、彼等すら近寄ら…

睦月十日・二〇一〇 #435

「書は捨てたろう、人の歴史は」かつて人の言葉を、思いを、或いは世界を綴ったもの。本。書は在るが故に読み手を欲し、読み手もまた書を欲した。それがどれほどの災厄を招いたか。故に書の、その情報としての機能は全て電子化した——だが、情報化できぬ、し…

睦月九日・二〇一〇 #434

冷たい部屋。暖房も心許ないし、何よりきみが居ない。このところ不調とは聞いているが、身を案じる他に何もできない。逢えぬ訳など、考え直しても始まらないし、このベッドはシングルだ。掻き抱いたつもりで背を屈めても、空しく身を丸めるだけ。腕の痛まな…

睦月七日・二〇一〇 #433

【羽根】海まではまだ遠い。日取りに余裕はあるが、出来うるならば急ぎたい。などとは、娘達には気取られぬように。夜も更け物音は書き記すこの羽と、遠くの声明。一通の文を届けてよりのこの変転、因果もまた調べと云うことか。或いは己もまた遠くまで来た…