2010-07-01から1ヶ月間の記事一覧

文月十八日・二〇一〇 #624

だからきっと、シュレーディンガーが箱を開けた時猫は居ない。彼または彼女は「付き合ってられないし、付き合う義理もない」から。けれどあるいは、何事もなくするりと飛び出してきて、お気に入りの場所に上ってあくびを一つ、そしてくるりと丸まって吾関せ…

文月十八日・二〇一〇 #623

「箱の中で猫は世界を観測している」猫が急に居なくなるのは、他の場所や時代に行ってしまうからだと云う。ある仮説によれば猫は「自分の居たいところにしか存在しない」らしく、猫にとっては時間も場所も等しく、快/不快だけを観測して最も心地よいところ…

文月十八日・二〇一〇 #622

「ひょっとすると世界に存在する猫の総数って、思ってるより少ないんじゃないだろうか」そんな事を考えたのは昔家に居た猫そっくりの猫を見かけたから。ぼくは知らないまま終わる話なのだけど、これこそ「輻輳胞体宇宙仮説」の糸口なのだった。「箱の中で猫…

文月十七日・二〇一〇 #621

#stw01 猫と云えば箱が付き物だ。勝手気ままに箱に入り、満足したら出て来る。そして、猫にしてみればどの箱も中は同じらしい。あいつらに時間は、ましてや空間なんて関係ないんだ──つまり、入った箱と出てくる箱が違ったとしても、彼らには当たり前のことら…

文月十七日・二〇一〇 #620

金管楽器を弾いたような音のしそうな朝。明らかにそれは昨日までとは違うもの、そんな気がした。貴女もこんな空を見上げているだろうか。いや、見ていなくても構わない。同じ空の、あちらとこちらに確かに居て、きっと何かでつながっている。今はただ、それ…

文月十七日・二〇一〇 #619

昨日までの雨もすっかり晴れて眩しい街を、あてどもなく歩いている。囃子の音色も賑やかに、祭一色に染まる景色は、強過ぎる陽射しに色を飛ばされたようで、握った左手も空を掴むばかり。貴女を見た気がした場所ばかり色づいて滲むから、洗い流してくれれば…

文月十六日・二〇一〇 #618

からくり維新。かの天舟の齎した一大技術革新により、近年祭の風景も大きく様変わりしつつある。一際眼を惹く自走山鉾、中でもやはり見ものは筆頭にしてくじ取らず、関帝もかくやのあの摩天の大長刀。金襴と鉄甲にその身を包み、都大路を練り歩くは壮観の一…

文月十六日・二〇一〇 #617

箱。箱の中にはすべてがある。過去も、未来も、現在でさえ。箱の外には何がある? ぼくらはこの箱を知らない。箱の中に居ることさえ知らないのだ。いつか開かれるのだろうか? ある時、気付いたものが居た。彼は夢に見たまま、そっくり小さくした箱を作る。…

文月十五日・二〇一〇 #616

「止みませんね、雨」「そう云う季節だからね」「珈琲でも淹れましょうか」「無理しなくていい……って云っても無理か」「お嫌いですか?」「どうして」「知らない。何でも訊くもんじゃないです」「難しいな……じゃ、お任せで」「主体性がない」「厳しいなあ」…

文月十五日・二〇一〇 #615

「脳量子回路?」「意識の問題だ。物理的に存在する必要は無い」脳じたいに「場」を構成し、そこに干渉することで量子回路を模倣する──確かに革命的な理論だ。スパコンを常に持ち歩いているようなものなのだから。「しかも、コスト的にはほぼ零に近い」それ…

文月十四日・二〇一〇 #614

小さなヴォリウムで鳴らしていた音楽を止める。入れ替わりに聞こえてくる、色の無い音。相変わらず雨は延々降っている。電話は鳴らない。灯りを消して横たわるけど、朝になっても電話は静かなままだろう。電話から静けさが沁み出して、全部覆ってしまえばい…

文月九日・二〇一〇 #613

大門を潜り大路を行くが、思いの外盲が多いのに気付く。苦にする風ではないのは流石は音の都と云うべきか。塔に区切られる八門それぞれの区には各々決まった旋律が響く。街路毎にもまた僅かに異なり、聞き分けられれば何処に居るか判るのだと云う。律韻の都…

文月九日・二〇一〇 #612

「そうだね。夜自体は悪くないんだ」日頃の饒舌さが嘘のように。少し空ろに見えた。「ぼくがはしゃぎ過ぎただけだ、他の誰かが悪い訳じゃない」遠い昔を懐かしむような瞳で。「謝らないといけない」誰にかと訪ねる気にはなれなかった。先生のそんな姿は、見…

文月七日・二〇一〇 #611

アーケードを歩く。当てはなかったのだけどいつもの店でパンと野菜を買い、紙袋を抱えて坂を上る。ガラガラと景気のいい音がして、そう云えばさっき貰ったのはこの券かと、運試しに廻すけれど。外れた券は短冊になっている。 #twnovel 「逢いたい」とだけ書…

文月四日・二〇一〇 #610

静かにiBookに火を入れる。「♩〜」全然静かじゃなかった。 何のヒネリもない実話です。古いマシンって何かと音がおっきいよね。

文月三日・二〇一〇 #609

智慧の実を口にして我等は楽園を逐われたと伝える。殊更に罪を重ね、再び楽園に帰り着かんとする者達。天使を身に降ろし、自らを枷として生命の実をすら奪った彼等は人の枠から零れ落ち、或いはその身を異形と変じ。人は怖れと、恐らくは微かな羨望からこう…

文月二日・二〇一〇 #608

眩しくて目を覚ますと案の定、ベッドの上にふわふわと球電が漂っている。どうやらどこか苛つきながら床に就いたらしい。そのままにはしておけないので、アース線を片手に握りこみもう片手を光へと伸ばす。ぱし、と軽い音と痺れとともに光球は崩れ、オゾンの…

水無月晦日・二〇一〇 #607

鬱蒼とした蓬髪を、簾を上げるように掻き分け呟く。或いは人界の言葉ではなかろう声に気配が動く。暫くの後、更に大きく髪を掻き上げた男の片目は──虚であった。その奥に、脈打つように燐光がある。おずおずと、主を窺うように出てきたそれは、眼窩の縁に翅…

水無月廿九日・二〇一〇 #606

晴れを知らぬ街、雷の都と、人は呼ぶ。見渡す限りに林立する尖塔は燐光を帯び唸りを上げ、時折電光が空を渡る。元は避雷針であったのだろうが、寧ろ喚び寄せているとしか思えぬ。街を囲む八方位には一際巨きな塔がある。見よ、虚空に君臨する光輪を。落ちる…

水無月廿九日・二〇一〇 #605

目隠しをさせられた。この方が感覚が鋭敏になるのだと云う。いつもの様に弾むきみを見ていたいのに、が通じる訳もない。だからその分膚に意識を注ぐ。溢れる息と弾ける水音、微かに甘い芳香、触れる揺れる温もり、闇のなかにおぼろげにきみを見つける。なる…

ついっ短歌・拾遺 その10『水無月』

抽斗を整理してたら黒歴史 奥の院より汲めども尽きず いざ洗えみじかき脚の烙印刻まれしジーンズ拭えど消えず 煙瀝の絡める色に染む罪よせめて焦がるる吾をも包め 青くとも唐辛子の名忘るまじ眠れる獅子も噛まれりゃ吼える 今すぐにでも電話したいのになんて…

水無月廿九日・二〇一〇 #604

眠りを乱すのは雨音と咳き込んだ息の音。そうして起きてみれば遠くの貴女を思うばかりで、眠れているだろうかなどと、他愛も年甲斐もあったものではない。寝る前に読んでいた本、あの二人に貴女とぼくを何処か重ね合わせて見ては居ないかなどと、これまた他…

水無月廿三日・二〇一〇 #603

「連理の枝などなんに使うのだ」約束を拭ってくるのだ、と云う。「また何処ぞの尊い筋か」「まあな。こないだのとは違うとだけ云っておく」そう云えば、西の大国で──「術師に渡りは付けてある。向こう何年かの命運がかかってるらしいからな、指輪は最早咒具…

水無月廿二日・二〇一〇 #602

夏至の夜は一番濃い夜素が採れるのだと云う。「夜素?」「さる止ん事無き筋がご所望でな」それで最上のものを、か。「近頃錬金でもあるまいに、何に使うのやら」「まあ詮索はせぬことだ」それもそうだ。深い森の奥、昼とて陽の射さぬ影に据えられた硝子細工…

水無月廿一日・二〇一〇 #601

明け方、貴女からの電話。次第に気付くけれど、それは夢。夢かと肩を落とすぼくと、せめて夢では届いたかと何処かで胸を撫で下ろすぼく。微睡みの中に、くるくる、落ちてゆく。 何のことはない、実話です。投下する数時間前に見た夢がまさにこんな感じで、夢…

水無月十八日・二〇一〇 #600

ちょっと滲んだ涙の理由を、探してみようか。 post数を慎重に窺っていた筈がこれである。こんなんでも600本目の#twnovelだ、文句あっか。

水無月朔日・二〇一〇 #589 保管し忘れ分orz

「対象「D」のHD反応を確認。ただし、作用効果の特定は不能。未確認のHDパターン……え? 逆探知? ああっ###」無線はそこで途切れ……てはいなかった。直後、感情と云うものの対極にあるような声で「D」は告げる。「一切の尾行等、干渉を試みるものは完全排…

水無月十九日・二〇一〇 ついのべオフ番外篇

雨季。あれらとて知って居よう。無謀であれ、王弟派が動けるのは今をおいて、ない。雨に沈む夜陰に乗じて仕掛けて来るに違いない──そう思わせる、未だ動くべきではない。その緊張の糸が切れる、その刹那こそ好機。「襲撃は払暁だな。兵たちを休ませておけ」…