2009-12-01から1ヶ月間の記事一覧

ついっ短歌・拾遺 その4

またまた溜まって参りました。 寝覚めても痺れぬ腕に息を吐く 形代もなしせめて夢では 星明り照らせ闇断つ蜘蛛糸震え伝えよ妹が身動ぎ 息吹さへ黒く凍えて拒む夜燈せよ焰君のかたちに 凍てた夜に思い悩みつ燻れどただ一本の電話で融ける 三分と満たぬひとと…

師走丗日・二〇〇九 #424

黒焦げの男が溺れている。氷の中で。 ネタ切れにつき一行ものでお茶を濁す。

師走廿九日・二〇〇九 #423

【命】奏都を発って数日。小さな音が、耳をくすぐります。みんなも気付いたみたい、そう、この先から。予定にはなかったけれど、全員一致。今しも、新たな命が世界に生まれようとしています。こんなに沢山で行ったら、驚くかしら。私達に出来ること、それは…

師走廿九日・二〇〇九 #422

【炎】それも旅の支度だった。大きな水晶球で、陽の光を集める。光の粋を、小さな炎に変えて。そうして持ち運ぶ為に炎管はある。聖らな火でなければならない時点で、その道行の意味は特別だった。それを、預かる。人生で、一番の大役かも知れぬ。遥かな海で…

師走廿九日・二〇〇九 #422

砂時計の中の竜巻は砂を元に戻してしまう。そうすればほんの少しだけスキマの時間が生まれる。最期の別れの、想いを告げる、生まれ出ずる、そのほんの一瞬前に。ありったけの言葉と心が塞き止められて、揺れている。嵐が去れば、動き出す、押し流す。時が、…

師走廿九日・二〇〇九 #421

”ヒッピー”それはまだ大地に根ざして生きていた頃の呼び名ではあったけれど、その自由さを呼ぶにはそれが相応しいのかも知れなかった。久しぶりに船団同士が集う。超光速通信網が結んだ恋路。ようやっと二人を乗せた船が揃うのだ。祝いに駆けつける仲間の船…

師走廿八日・二〇〇九 #420

塔が吼えた。遥か昔から、ただ一つの報せを待ち続けて。希望や、悲願や、想いと人々を乗せて旅立った船達。その、たった一つの報せを待つ塔。残された人々が文明すら忘れても、塔だけは待っていた。そして今、確かに届いたのだ。報せを受け取るべき者が、野…

師走廿六日・二〇〇九 #419

【映画】古いフィルムがきりきりと廻る。どうやらいつかの実験の模様らしかった。音のない映像は色も褪せているけれど、まるでその熱気が聞こえてくるようで。機材の間を走り回る、白衣の若者達。やがて見た、或いはささやかな奇跡。まだ、喪われた訳ではな…

師走廿六日・二〇〇九 #418

博物局員はまだ幼い少年達に静かに語る。自らが見てきた一部始終を、今は亡きもの、時の一隅で見たそれを。それは幾度目かの世の黄昏を彷徨うもの、巨いなるもの、かつて「陸獣」と呼ばれたもの。最後のそれの、その最期を看取ってきたと、静かに語る。子ら…

師走廿六日・二〇〇九 #417

冷たく乾き切ったその身を横たえることもまかりならないから。そう云い彼女はその場を動かぬ。小さな泉の上だった。その身を浸せば、凍てつき涸れると知っている。その泉が、麓の村を潤すと知っている。女神を慕う水精達がせめて、とその身を包む。それは恰…

師走廿六日・二〇〇九 #416

そして回帰する日常を思いながら、そっと筆を置いた。音を立てては君たちが起きてしまうから。窓の外が、ずっと静かだ。きっと雪、あの晩のことを思い出すような。耳を澄ませば水の音、蛇口は……もう細く開けておいた方が良いのかな。片付けものは、日が昇っ…

師走廿五日・二〇〇九 #415

狂乱の夜は明けた。集結点に、意気未だ軒高なる者、這々の体の者、満身創痍なる者、そして……還らざる者。一夜がまるで幾年もの死闘であったかのように、揃いの赫装も、最早判然とはせぬ。そして朝日の彼方から、最後の帰還者。空にした橇に、「一人残らず還…

師走廿四日・二〇〇九 #414

十二月二十四日。零時三五分、墜落死。四時十一分、窒息死。何も、こんな日に。十時四七分、焼死。十六時二九分、轢死。十九時十八分、轢死。そうだ、コレで電車が止まって……するとこのメモは、つまり。頁を捲る。途中から、赤字。二十二時、二十五分。圧死…

師走廿三日・二〇〇九 #413

上臈も罪な真似をなさる。かんだたなど、未だ善いではないか。誰一人と蹴落とさねば救いはあつたのだから。然るに何うだ、此の蜘蛛の糸ときたら。何時ふと途切れるや知れもせぬのに、この亡者の群がりやう。尚更に因業なことに掬いは唯の一人だけと、予め決…

師走廿二日・二〇〇九 #412

その惑星の主要大陸の存在する北半球では冬至を迎えた数日後、決まって未確認の量子変動が観測される。その影響は様々で、多くは存在確率への干渉(なかった筈のものがある)だが、現地住民はこれを疑問なく受け容れている。惑星の科学レベルからすれば些か…

師走廿二日・二〇〇九 #411

冬に至る。これより先はなし。雲の壁の果てに理想郷のありと聞けども、雲に果てなく。獣は眠り或いは死せるに、人は携えし火もて眠るを能わず。待ち得ざる人の、何方へとも知れぬ隊伍、昏く鈍きは葬列にも似て、炎尽きしより斃れたる。敵わずと見えど時翁人…

師走廿一日・二〇〇九 #410

【骨】ぴしりと軋む。老丞に気圧されている。告げられた秘密は重い。是も非も無く、共有せよと云うのか。よもや、市で遇った少女の双肩に、それほどのものが。義憤ではない何かが骨子から囁く。あの笑顔を、曇らせたくないと。諾と告げる思いなど見透かされ…

師走廿一日・二〇〇九 #409

心奪われた、のはいつのことであったか。うっすらと記憶に靄がかかって思い出せぬ。かつて燃え上がるように貪り合った記憶がまだ何処かに引っ掛かっている気もするが、この女であったか。何故か不意にある蜂の事を思い出したが、それも消える。もう心などと…

師走廿一日・二〇〇九 #408

戯れに恋など出来る程駆け引きには通じておらんよ、嘯くでも無く、彼はそう云う。よりにもよって、かの東の魔女とは。徒手空拳より尚無謀なのではあるまいかと、掛ける言葉も見つからぬ。と云うに、数旬の後寄り添う二人を見てまだ世も捨てたものではないな…

師走廿一日・二〇〇九 #407

収穫の秋を終えればじきに雪に閉ざされるだろう。彼女の素振りが、それは少しづつ綻ぶ蕾のように妖しく薫りだすのはいつもこの頃。今にして思えばあの事故も必然だったかと云う気もするが、多くの仲間を見殺しにするより他無かったことを拭えるものでもない…

師走廿一日・二〇〇九 #406

ぼくを形作る名もなき言葉たちよ。きみらをありのまま、思いのままに解き放てぬ不実を詫びる。 一行ものはあまりやらないのだけど、この言葉だけは出て行くことを欲したので。

師走廿一日・二〇〇九 #405

走れば、間に合うのか。間に合ったとして、辿り着けるのか。辿り着いて、ちゃんと逢えるのか。逢えたとして、何が云えるのだ。何か語るそれは、何を伝える。伝えられるものなのか。分かち合えるものなのか。受け取ってくれるだろうか。綯い交ぜのまま列車に…

師走廿日・二〇〇九 #404

終わりはない。ただ巡るのみ。疑いなど抱いたこともなかった。自らは、なんであるか。それに誰よりも早く気付いたものがわたしの手を引く。気付かぬまま、知らぬままに、沈めた街を数えるのはもう止めた。自らに手を下す術だけを、ただ考えて。黒死の旅団に…

師走十九日・二〇〇九 #403

【蜃気楼】海沿いの市城には、この時期遠く沖合にかの地に通ずる扉が開くのだと伝えられています。これに赴き、”聴き取って”来いとの由。物見遊山ではありません、これもお務め、とは云え心が躍らぬと云えば嘘になります。決して届かぬその先から、何を語っ…

師走十九日・二〇〇九 #402

【蜻蛉】手紙を届けに行っただけの筈、だった。だからすぐに帰れると。何故こうも待たされる。窓の外、虫が飛ぶ。師のもとで見たあの虫が、今は自由の象徴に見えて仕方ない。何か自分の及びも付かぬところで運命が書き足されている、そんな気がしていた。扉…

師走十八日・二〇〇九 #401

娘が本棚の奥から持ってきた本。懐かしいそれはきみにはまだ難し過ぎるよ、とふと思い出す。確かこれを彼女から借りていた時に、そっと一通の手紙を忍ばせた筈だ。朧げな記憶を頼りに開くが、ない。あった形跡はあるのに「何をお探しかしら?」きみの指先で…

師走十八日・二〇〇九 #400

埋め尽くす無線塔の群れ。チューニングは、合っているのだろうか。風が時折掠めて抜けて、雲は夕日を受けて流れる。揺れるアンテナの群れは、それ自体が信号のように。その声は誰に。誰から、誰のために。降りてきた夜の帳に浮かぶ、発動機。息づくように、…

師走十八日・二〇〇九 #399

【ごまかし】いずれ気付かれる。あの娘たちは聡明だし、そうあるよう育てたのだから。けれど、いずれ知る日は来る。いえ、それを自ら知り考え決断して欲しいとすら思っている。だから今はまだ問われても、答えまい。本当のことを知るには、本当のこととは何…

師走十八日・二〇〇九 #398

【時の流れ】その一室には世界中の楽器が飾ってある。かつて主が旅の先々で求めたそれらは最早、奏でるものもないけれど。ほんの半世も前にはその音色が世界を動かしたなどと、何か遠いお伽噺みたい。そう、子守唄代わりに聴いた、祖父の昔語りはいつも不思…

師走十七日・二〇〇九 #397

そもそも喰われることに不満はないのだ。糧たるこの身、そう云うものと観念はしている。だが、この有様はどうだ。きゃあきゃあと、誕生会だか何だか知らんが。コレ嫌いだの、大騒ぎしてぼろぼろとこぼし散らかし放題の。が、拵えた当人は嬉しげに云う。「元…