2010-02-01から1ヶ月間の記事一覧

如月晦日・二〇一〇 #488

暫しの逡巡の末、重い口を開く。彼らの正体、病の原因、不確かで危険な手だて。そして、彼らが逡巡と葛藤に沈む番だった。「血を封じる。いくら君らでも寿命に響くぞ」無い応えこそが決意か。困難な術式だった。竜血の凝石を遺し帰途につく二人を見遣る。暫…

如月廿七日・二〇一〇 #487

若き夫婦と思しき二人が、故あってその錬金術師を訪ねたのは少し昔の話になる。彼女らの大恩ある人が患う熱の病をせめて救うべく、何か妙手はないかと方々を訪ね歩くうち、それぞれがここに辿り着いたと云う。彼は一目見て理解した、が伝えるべきか。その人…

如月廿四日・二〇一〇 #486

夢か。眼前を兎が駆けてゆく。アリスでもなし、忙しげに時計など睨みつ、ふと隠しから何か落ちたにも気づかぬ様子。面倒は御免だが、と拾い上げれば小さな銀の鍵、さてどうしたものか。一応追うかと道ゆけば橋、兎困って見上げる袂の高札の文言は件の如し、…

如月廿二日・二〇一〇 #485

鉄の町として知られるこの地の外れに、然程大きくないが池がある。名とてあるでもないが、何処ぞの学者先生の仰せのように、鉄ある処その姿あり、とばかりに毎年冬ともなれば埋め尽くさんばかりに白鳥が越冬に舞い降りる。その姿からか、地元の者は「にぞろ…

如月廿二日・二〇一〇 #484

【世界を革命する女心の物語】 ああ、なんでこんな事に。大昔に読んだ奇想の小説を思い出す。世界を埋め尽くし塗り潰した、あの悪夢のような「乙女心動乱」より早数年。もっとも、それを悪夢と思う者は世界の半分程にしか満たなかったのだが──即ち、男どもで…

如月廿二日・二〇一〇 #483

世界と云うのは結構重なり合ってるもんで、位相差とか云ったりするんだが、そこの間の流れをイーサとかエーテルとか呼ぶんだが、これが齎すエネルギーが銀河文明を支えていると云っても過言ではない。その原則から云えば、相転移から隔絶されたそんな場所に…

如月廿一日・二〇一〇 #482

銀河は決して狭くはない。環境も様々だ。未遭遇異文化との折衝、と云えば聞こえは良いが、実のところは体のいい厄介払いである。第六腕17セクタ中心星系、融通の利かない「小さな灰色」がご丁寧にも送り返してきた報告によれば、その現地呼称は「ソル」。そ…

如月十九日・二〇一〇 #481

遥かな昔、魔術があった。いつ失われたのかも判然とせぬ。高祖が世の理に通暁してゆく途でそれは失われていったのであろう。科学の灯が夜の一隅をまで照らすようになっては最早痕跡すら見当たらぬ。それがあまりに歪な文明の形であるなどとは知る由もない程…

如月十九日・二〇一〇 #480

寒気に目覚める。痛いほどの静寂の中窓を開けてみれば、外は一面の新世界。色も定まらず、二つとしてなく、互いに喰い合っている。やがて形を保てず弾け、ちらと光を残して消える。やがて泡のように舞い上がり、何処へとも知れず消えてゆく。そうこうするう…

如月十九日・二〇一〇 #479

第六腕の17セクタと云えば、確かエラい辺境ではなかったか。信じられないほどエーテルも稀薄で、あの中と行き来するには確か物理推進しか手段がなかった筈だ。まさか何も居やしまいと、ダメ元で「小さい灰色」どもを送り込んで随分経つが、先日報告があった…

ついっ短歌・拾遺 その6

空遠く最早還らぬあの日々を隠せ白雪洗えよ氷雨 ひと房で良いから無念預けてよ 形代なりて背負うぬばたま 肩を抱く腕の丈を噛みしめる君の幻消ゆる刹那に 飛んでゆけ赤い糸食み青い鳥きみの小指を止まり木として 赤い糸咥え飛びゆけ青い鳥きみの小指を止まり…

ついっ短歌・拾遺 その5『睦月』

と云う訳で気がついたら随分溜まっていたので、まとめてみませう。 晦のまみえぬままにつのりゆくおもひは穹の彼方と此方 待ち兼ねる師走晦玉帚忘るる程の年でなけれど 声ひとつ掛けるに遠く儘ならず憂い焦がれる真冬の燠火 何処何処と空に不穏を撒き散らし…

如月十五日・二〇一〇 #478

駆ける。「……」やっと。溢れそうな表情。「あ」めまぐるしい光。カリヨンが華やかに、あるいは冷酷に今日の終わりを告げる。それで、決壊した。「うわああああああ」ぼくの所為なのに。だから「その気持ちが一番嬉しい、愛してる」肩を抱く。ほら、雪だ。 2/…

如月十四日・二〇一〇 #477

古い古い、それは上古と呼べる昔のこと。国の始りに森の奥深くに住う古竜と一つの盟約を交わした。トアは古より女王の治める国である。竜骨の髄より磨き出された王笏は爾来の至宝だが、その真の姿は竜笛。血に依らず、息吹して古竜を呼び従え得るもののみが…

如月十三日・二〇一〇 #476

耳に小さな孔を穿けた。心に穿けるには、はち切れそうだったから。でも、小さな孔から風が吹き込んでくる。それは、少し先の、春の匂いを微かにさせているのだった。 @kaleidoscope_yt女史に捧ぐ。

如月十二日・二〇一〇 #475

龍の貴種は人身に転じ密かに棲まうと聞く。杜亜の森に龍の巣ありと伝えるが、住まうと云う洞窟はあれど、気配の名残とても無い。ただそんな謂れのある森に、住む者がいる。まだ若い夫婦とも歳経る連理とも噂ばかりを聞くが、 みな口を揃えては或いは龍の転身…

如月十日・二〇一〇 #474

心に留めておくだけでは足りない。クリック。ドラッグ、範囲を選択。コピー。起動、「ToDo」。新規作成、優先度:最高。期限:無し(永続)。期間:設定なし。ペースト、保存、完了。これで、ToDoの先端にはいつも、いつか口にする「はじめまして、愛してます…

如月十日・二〇一〇 #473

「ああ、その版でしたか、ならば敵わないのも道理か」さらさら崩れゆく男の手のなかで一冊の本が黒い焔に包まれる。その版、と云うことはつまり。「写本か。とは云え一級だぞ、それは」燃え尽きてはなに語かまでは知りようもないが、紛れもなくそれはかの書…

如月七日・二〇一〇 #472

音のしない夜。窓を薄く開けば、そこは淡く、曖昧な白。頬を撫でる夜気にそっと震えてきみの名を呟けば、そのかたちにこぼれた雲が闇に溶けた。どうしていますか、そちらでも、降っていますか。窓を閉める。一層こみ上げる寒さの中、包んだ両腕はすり抜けて…

如月七日・二〇一〇 #471

普段自転車で見かけるであろうチェイン。あれをそのまま巨大にしたようなもので、その水門は塔屋から吊るされている。あの巨大な鎖が、轟音を上げて鋼鉄の落とし戸を巻き上げるのだ。対になるもう一つの門との間に川を往く船を迎え入れ、水路との差を均す。…

如月六日・二〇一〇 #470

「青い鳥に、赤い糸を託した。”D ……”飛んで行った空の蒼に融けて見えなくなったけれど、あなたにきちんと届けば良いと願う」 @k_you_nagi女史の「twitterには青い鳥がいるんだなぁ」と云うひと言を承けて書いてみたもの。因みに短歌のモチーフにもしている。…

如月四日・二〇一〇 #469

「生かす」は「逝かす」也、と習うてきた。其れはまた、世の枝払いであると。教えに従い、鎮護に請われ、仇なす枝の輩をこの手に掛け続けてきた半生である。理想など、何処に有ろう。命を乞われた事とて数えも付かぬ。黙して刃を、振るい続けたのだ。その日…

如月三日・二〇一〇 #468

陰の気が凝り何くれ構わず憑いたものが鏖餓である。悪心妬心、野山の獣果てはヒトに憑いて異形を成すのだ。獣は兎角、ヒトを依代にとあれば屠るも能わぬ。何故かは最早判じもつかぬが、この日豆にて打てば陰気を祓い憑物は落ちる故、若衆は散筒に鉛粒の代わ…

如月朔日・二〇一〇 #467

何の気なしに散歩に出た。りんと冴えて月が痛いくらいの、雪の夜だ。街灯も心なしか冷たい、そんな夜更け。差し掛かった公園の、眩しい白一色に。誰かが嬉しがって、何をしたためていったか。場違いなところで、自分の名前を見るのは、背後から音もなく、急…

如月朔日・二〇一〇 #466

魔女の棲む森、と人は云う。石の魔女、と。老婆の他に、赤い髪の娘と、少年が一人。人の立ち入らぬ森深く、住んでいた。遠い日に交わした約束の代償は幾らでも得られたであろうに、老婆はついぞ求めぬままに世を去った。程なく、森から翔け上がる蒼紅の双竜…

睦月丗日・二〇一〇 #465

ふと窓を開き、空を見上げる。高い空の、おぼろと呼ぶにはあまりに厚いヴェールの向こうに、儚げに月が隠れていた。雲に霞む月を見る度、貴女を思い出すようになってしまったではないか。今宵はつれなくもあり、見られていたようでもあり。まあ、どの道、お…

睦月丗日・二〇一〇 #464

「今度ばかりは駄目かも知れない」そんな焦燥に駆られて駆け込んだ列車は、不意に軋みをあげてそれ以上進まなくなった。アナウンス。停電により。復旧の見通しは。ワケガワカラナイ。どこからともなく、時計の音が聞こえる。電話、していいのか……? @chiho_y…

睦月丗日・二〇一〇 #463

黄金の瞳が値踏みするように視ている。”ふうん、古種には違いないのね”なんだよ偉そうに。”すっかり飼われて丸め込まれて。無様”檻の中からじゃ説得力ないんですけ”ッ!”劫、と空気が白熱して裂ける。「ぅ熱っつ!」蒸発した檻。赫い竜蒼い竜、仔達は人の迷…