皐月朔日・二〇一〇 #547

杜深い四阿に炊ぎの煙はたなびき、夜禽の声も谺する頃。男が戸惑うのも無理はなかった。先客とは、あの調べの奏で手に他ならなかったのだから。慎ましやかな身形とて、裡より湧き出る品位や風格を隠し仰せるものではない。女主人は悪戯げな笑みを浮かべ、若き傀儡師を見つめている。

お忍びで、とは云え割に良くある話のよう。そして、間違いなく意図的なセッティングだ、これは。